胎動、ジオフロント 〜 リツコ、レイ、そしてゲンドウ
作 / Sa−toshi ・ 画 / 森里 涼


 俗に箱根山と呼ばれる神奈川南西部にある古い火山塊は、古箱根火山の名残である金時山、明神ヶ岳、大観山といった1000メートル足らずの外輪山と、後の活動期に形成された神山、駒ヶ岳などで構成される中央火口丘、そしてその間に広がる解斥された火口原から成る二重火山である。その火口原の一部が陥没侵食して出来た芦ノ湖の地下深く、ジオフロントと呼ばれる地底の大空間に、その特殊性から外部から隔離された所に設置する必要性があるNERV本部は築造された。

「やっと本部の体裁が整いましたね」
「ああ、これでEva計画もいよいよ核心への扉を開けるというわけだ」

 地底空間にいくつか点在するNERV関連施設の中でも、ピラミッド型をした本部ビルは外装に窓を持たぬ要塞のごとき威容を誇って、陽の光の届かぬ空間の中に照明に照らし出されてそびえている。史上初の本格的人格移植型コンピュータを導入した、極めて高度な戦略戦術統合管理運用システム「MAGI」を中心に、理論の検証と幾多の実験を経て動き出した「人類補完計画」及びそのための「Eva計画」遂行を目的に第1期から第3期までに分けられた本部建設稼動プロジェクト。それが2014年の春にようやく完結しようとしていた。今、その要塞の最重要機密区画の一角に位置する第1発令所のヒナ壇状の官制プラットホームに立ったNERV最高責任者・総司令の碇ゲンドウは、傍らに立つ若きEva計画技術責任者・赤木リツコの言葉に答えて蓄えたアゴの髭を片手で撫でた。1999年夏、南極での科学調査中に発生したいわゆる「セカンドインパクト」と呼ばれる未曾有の大災難。対外的には隕石あるいは小惑星の落下とされているこの事件の真相を握る、秘密結社ゼーレの「利き腕」としてこの地位まで登り詰めた男のまなざしが、飴色のセルフレーム眼鏡の下からリツコに向けられる。

「私の仕事もようやく引込線から本線に入れるということですね」
「ああ、全ては揃ったんだ、キミにはますます期待している」

 赤木リツコは第2東大でバイオ・メカトロニクスを学び、ゼーレのスカウトによって大学在学中から暗にEva計画推進のために育てられた才媛である。この本部躯体の最終的な完成を娘と共に見ることなく不慮の事故死を遂げた彼女の母親は、人工知能研究の権威として先述したMAGIの開発に携わっただけに血筋は確かであった。

「キミ無しでは、これからのヤマ場を乗り切ることは出来んからな」
「はい、私も技術者のプライドに賭けて、ぜひ成功させます」
「そうだな…」
「では、スタッフとの打ち合わせがありますので」
「連日泊まり込んでいるそうだが、体は大丈夫なのか」
「もう慣れましたから、失礼します」

 仕事着として羽織っている白衣の裾を翻して通路への出口に向かうリツコ。美貌の研究者として聞こえた母親譲り、いやそれ以上に磨かれていると言っても差し支えない見事なプロポーションが発する若い女盛りの色香。それをボディラインを包む飾り気のないクリーム色のブラウスと黒褐色の短いタイトスカートが一層強調している。

「キミは大いに期待しているんだ、赤木リツコ君…」

 タイトスカートの下の見事に張った彼女の腰つきを横目で見送りながら、ゲンドウはつぶやいた。そしてリツコが去ったしばらく後にゲンドウの元にやって来た、揃いの黒いダークスーツにサングラスの数人の男たち。研究開発を任とするNERVには不似合いな彼らこそ、身内の人間が最も恐れている監察部の実行班員たちである。

「手はず通りに細工は済ませてあります」
「ご苦労…この御時勢、本物のバラの香水など手に入り難かっただろうが」
「いえ、ところで失礼ですが、今回の赤木博士に対する工作の意図は何なのですか?」
「まだ若い彼女が我々NERVにとって本当に信頼に足る人物かどうか、私なりに確認したいのだ、これでは答えにならんかな」
「いえ、余計なことをお聞きして申し訳ありませんでした、失礼します」

 黒服たちのリーダーらしき男が、ゲンドウから直接受けたと思われる指令の目的を尋ねると、口の端にフッと笑みを浮かべながら彼は答える。その言葉に恐縮するようにかしこまって敬礼をした男は部下たちと共に最敬礼すると人目を忍ぶように素早く退室した。

■■■

 リツコはNERV本部中央を上下に貫くセントラルドグマと呼ばれるシャフトの基部近く、関係者でも一部の専用カードとパスコードを持つ者しか立ち入ることの出来ない、専用エレベーターでしか降りられない「ターミナルドグマ」にある仮の私室にここ数日は泊り込んでいる。近付く地球規模の危機に対処するための前代未聞の巨人兵器開発プロジェクト「Eva計画」。バイオ・メカトロニクスとその成果であるマンマシン・インターフェイスの技術の粋を集めて作られる人造半生体兵器「エヴァンゲリオン」。その本体の試作開発と、コアと呼ばれる心臓部に「装填」される「心の創造」を担う技術部門の現場責任者として奉職することを運命付けられた彼女は、その疲労も入所して以来ピークに達している。

「試作体はスケジュール通りに組み上がりそうだわ」

 躯体の内装が完成した部分から、NERV本部は既に機能し始めていた。完全な動作試作体の完成は、まだ先の話だが、インターフェイスを仮想空間で試験するためのコアのプロトシステムはパートごとに別の研究施設で開発されたものを躯体の完成前に運び込み、予定通りにほぼ型を成しつつある。粗末な事務机の脇に設えられたパイプベッドに腰を降ろしたリツコは分厚いファイルブックをめくりながら、初期実験に必要なハードウェアの開発進行が間違いなく進んでいることを自問するように確認する。

「問題は、システムを動かすソフトよ」

 ソフト、すなわち「心」に相当するのは生身のパイロットである。Eva計画において表向きはパイロットの適性をチェックして候補者から選抜する予定にはなっていたが、実際問題として生体部分を多用する全く新しい兵器システムにおける適性とは、その生体部分とパイロットとの遺伝学的適性の一致を意味する。試作体ではテストケースとして、遺伝的適性を完全なものにするためにゼロから「パイロットを製造して」試験を行うことになった。遺伝子操作によってハードとしての生体部分とほぼ完全な遺伝的整合性を持った人工授精で生命としての芽をふいた「プロトベビー」は、純度を限りなく保つための人工子宮の使用によって10ヶ月後に「ファーストチルドレン」として複数体が誕生した。綾波レイと名付けられた彼女らは、現在まで厳重な監視管理の下に順調な発育を見せた数体が生存し養育されている。そして今回のプロトシステムと「ファーストチルドレン」との試験如何によって、既に種の蒔かれている後続のパイロットと量産配備するハードの有効性が判断されるのだ。

「人間が人間の心まで造ることなんて、本当に出来るのかしら…」

 Eva計画はセカンドインパクト発生直後から立ち上がった長大な極秘プロジェクトの延長であり、その原理についてはセカンドインパクト発生以前から研究されていたという生体科学実験をモデルにしている。従って「プロトベビー」製造に至る過程は、リツコが計画に携わる以前に着手されたものであり、人為的な人間の創造について理屈では理解していても、彼女自身半信半疑なところもあった。ファイルブックを机に置いたリツコは腰掛けたまま上体を屈めて両腿の上に両腕で頬杖を付くと数回会ったことのある、その青く輝く髪と透けるような白い肌の少女を思い出した。

「あの娘、表情の変化が乏しいのよね」

 成長促進プログラムに従って誕生前の遺伝子改造と誕生後のホルモン操作で実時間より遥かに早く成長したという、綾波レイと名付けられたその少女は、もうすぐ13歳になる筈だ。いつ会っても他人になど興味を示していないかのような冷たい表情で人を見る。出会った少女が毎回同じ綾波レイなのか、その「姉妹」なのかは全くわからないが、彼女の年相応の生き生きとした顔をリツコは見たことがない。

「あの娘、恋なんてするのかしら」

 普通の少女なら、もう思春期の難しい年頃に差し掛かっていてもおかしくはないだろう。だが、感情の起伏が外見からは感じられない綾波レイという娘が年頃の少女のように恋に悩んだり、増してやセックスに興味を持ったりするとは、彼女には思えなかった。

「ま、理数系馬鹿の私がお節介焼くことでもないわね…ちょっと酔ったかしら?」

 自分自身、もう何年も恋にときめくようなことがなくなっていることを思い出して、リツコはクックッと声を殺して笑った。部屋に入った時に、彼女の机の上にフレンチバスケットの軽食と冷えたワインが置いてあった。ロクに昼食も摂れなかった彼女は、おそらくゲンドウが気を利かしたそのプレゼントをさっそく頂戴していたのだ。空腹にワインの小瓶はたちまち空になり、顔がボーッと火照っている。

「女の子らしさなんて、意識してたのはいつの頃だったかしら」

 ベッドの上に横座りの体勢からそのまま横に倒れるリツコ。脱色した金白色のウェーブの掛かった長い髪が枕の上に散る。両手を左右に水平に大きく開き、彼女は天井の仮設照明のむき出しの蛍光燈をぼんやりと見つめる。

「何だか、暑くて妙な気分だわ」

 壁も天井も灰色の吸音耐火ボードで覆われた、窓もない留置場のような無味乾燥な室内。天井の蛍光燈の左右にある空調は静かな換気音を立てており、部屋のドアの脇にあるインジケーターも適正温度をデジタルで表示している。しかし、リツコはベッドに横になる直前から、最初は顔だけだった火照りが全身を覆う微熱のような気だるいものに変わっていることに気付く。そして嗅覚の奥をごく微かに刺激するバラの香りを覚えるリツコは横になったまま視線を室内に泳がせる。

「バラなんて無いのに、気のせいかしら?でも、何だか懐かしい感じがするわ」

 最近は自宅に戻ることが希になっているので、自分で花を買って飾ることなどしなくなっていたリツコだが、物心が付いた頃から大学に入学して母親と離れて暮らすようになるまでは、よくバラの花をねだって自室の花瓶に飾っていたのだ。

「疲れてるのかしら、あたし…妙な気分になってきちゃうじゃない」

 アルコールの酔いとはちがうドキドキとした鼓動が、リツコの耳の中に大きく響く。呼吸のペースがやや速くなり、開いた白衣の前衣からブラウスを盛り上げている左右の胸のふくらみが大きく上下する度に唇が乾くのか、舌で唇を何度も舐める彼女。ブラウスの下のブラのカップの中で乳首が鋭く尖って苦しそうにそれを押し上げる、胸の先のせつない感覚がリツコを悩ませた。

「仕事場でこんな気分になるなんて、イヤだわ…もぅ」

 初めて自分で手慰みを覚えた時も中学の定期テスト前の勉強中だったことを、ふと思い出してしまった彼女は、誰もいない部屋の中で恥ずかしさに両手で赤熱する頬を覆った。その時も机の端にはバラの花が一輪差してあったこと、深夜に別室で眠っている母親のことを気にしながら、ついつい下着越しに触れた股間のポイントの疼きを我慢出来なかったこと…。室内を泳いでいた彼女の視線は入り口のドアに鍵を掛けたことを確認している。この部屋にはまだ直接室内を監視録画できるカメラは設置されていないこともリツコは承知していた。

「リツコ、ダメよ…こんな所じゃ」

 両手で頬から顔を覆ったまま、熱を帯びた体を鎮めようと自制の念を頭の中に巡らせるリツコは小声で自らをたしなめる。しかし、我慢しようとすればするほど、彼女の体は欲求不満のシグナルを発する。タイトスカートの中でぴったりと食い込んだパンティに圧迫された恥丘の下の熟れた狭間も熱気を溜め込み、両腿を少し動かしただけで敏感なポイントが痺れてくる。トロリと濃いものが女芯の口に滲み始めている感覚がはっきりとわかった。

「うぅン…」

 堪らなくなったリツコは、顔を覆っていた両手を首筋から襟元へと撫で下ろす。ブラウスのボタンを手早く腹の辺りまで外してしまうと、前をはだけてブラのカップに覆われた見事な2つのふくらみを天井に向けて突き出した。そしてカップの上から左右の柔かい小山をそれぞれの掌を下から捧げ持つようにしてキュッと揉み上げる。

「はぅぅッ」

 吐息についつい甘い声が混じってしまうと、もう本能が勝手に自分の体の喜ぶ行為を彼女の両手に次々と命じていく。リツコの手は胸の真中にあるブラのホックを外してカップを左右にハネ開いた。ほっそりとした彼女の外見からは意外なくらいに嵩のある白い胸の量感が呼吸と一緒に息づいて震えている。その頂上にはツンと尖った深紅の乳首が、ふくらみの血を集めて天井を指す。リツコは掌でそのふくらみを外側から押さえるように撫で付ける。掌とふくらみとの間に埋もれた硬い乳首がコリコリとよじれると、両胸の先から発した刺激は脊髄を上下に走って彼女の脳裏と下腹部のパンティと両腿とに押さえ込まれた部分をアブる。

「ハァッ、もうたまらないッ」

 リツコは右手を胸から下へと滑らせる。タイトスカートのサイドホックを外してウェストを緩めると、右手はタイトスカートの中に潜り込む。ブラウスの裾を除けて、へその辺りから刺繍の施されたパンティの生地の下へと這わされた右手の指先はザラザラしたヘアの感触を伝えながらプックリと肉を付けた恥丘を経て、その下の熱い狭間に届く。

「あうッン!」

 中指の腹が狭間の中の小さな襞を分けながら、その上に小さく尖った敏感なポイントをクルリとひと撫ですると、リツコは思わず小さく膝を立て、腰を浮かせて声を高めた。すぐに唇を噛んでより高く大きな声が出そうになるのを我慢するが、狭間を這い回る右手の指先は止まらない。女の芯から滲み出しているネバつく濃いもので指を汚しながら、それを狭間の中に塗りたくるように人差し指、中指、薬指がうごめく。

「ひッ、あッ、あぁッ!」

 左手は時に搾るように左右の乳房のふくらみを掴み、乳首を摘まんでシゴく。着衣の隙間から恥ずかしさと罪悪感に耐えながら体を愛した少女の頃のつつましさは、20代最後の誕生日を迎えようとするリツコにはもうない。火の点いてしまった女盛りの体に、抑制を求めるのはいかに才媛と言えど無理というものだった。

■■■

 リツコがひとりで自愛に耽っている頃、NERV本部の中層階にある総司令の執務室。実際にここにこもって仕事をする機会が無い上に、正式な竣工式前のためにまだ執務などに使う調度品は搬入されていない部屋の中で2つのパイプ椅子に座っている人影があった。照明の消された部屋の中で映像プロジェクターをじっと観ているその2人。片方は口の周りに髭を蓄えて色付き眼鏡を掛けた執務官服の男、碇ゲンドウ。もうひとりは男よりずっと小柄で線の細い、青く輝くセミショートの髪を持つ少女である。少女は病院の患者の着る検査着のようなくすんだ水色のペラペラとしたものを着ていた。

「レイ、よく見るんだ」
「はい…碇司令」

 暗い部屋の中でプロジェクターの映す映像の光が、ゲンドウの眼鏡のレンズに白く反射している。少女の顔や半袖からのぞく細い腕、膝から下にむき出した足のスネも白い肌が瞬くように光りを照り返している。高官の執務室ということで完全に音も光りも外部と遮蔽した部屋の中に響き渡るのはこもった感じの女の荒い呼吸と時に漏れる喘ぎ声であり、直接床に置かれた35インチのプロジェクターに映し出されているのは、真上から見降ろした声の主であろう女のあられもない姿だった。女は自らベッドの上で服をはだけて柔らかな胸をあらわに愛撫しながら、スカートに隠れた下半身も片手を潜り込ませて味わっているようである。

「どうだ、レイ、何か感じるか」
「何だかよくわかりません、これは本当に赤木博士なんですか?」
「ああ、これが人間の本能的な感覚がある意味で解放された状態なのだ」

 レイと呼ばれた少女は、表情にさしたる変化も見せずにプロジェクターの中で乱れて行く赤木リツコをボーッと観ている。しかし少女の体のあちこちに張り付けられたワイヤレスの超小型センサーは、ゲンドウが膝の上に抱えているモニタリンググラフに彼女の心と体の微妙な変化を捉えている。少女の脈拍と体温は少しずつだが確実に上昇していく。その変化のせいか、少女はときどき両足をプラプラとばたつかせていた。

「レイ、おまえにはこれから本能的な覚醒が必要になってくる、そしてそれは私にとっても必要になってくるだろう」
「はい、碇司令がおっしゃるならば、それは大切なことなんだと思います」
「今は自分の心に説明を付けようとしなくてもいい、ただありのままに感じていれば良いのだ」
「感じる…のですか?」
「そうだ、理解しようとするな」

 少女は自分がこの世に生を受ける前から、この碇ゲンドウという男に見守られ続けてきたかのような安堵感をずっと感じている。実際、自分の記憶がはっきりと覚えている範囲で、この男は親身に世話を焼いてくれていた。少女を取り巻いている他の関係者の、彼女に対する「研究材料」としての興味の視線を、この男からは一切感じることがなかった。

「これまでも、これからも私はおまえに教え続けていく、いいねレイ?」
「はい、碇司令」

 データの値が期待通りであることを確認したゲンドウは、モニタリンググラフのスイッチを切ると、プロジェクターの画面をブラックアウトさせて音声を切った。膝を立てて腰を揺すっているリツコの姿は輝度の消失と共に見えなくなった。

「私は、これから用事を済ませて来る。もう自分の部屋に戻っていい」
「はい…」

 ゲンドウは少女を残したまま暗い執務室を後にする。少女はそのまま椅子に座っていたが、ゲンドウの足音が聞こえなくなってしまうと、着ている薄っぺらな布地の裾をゆっくりと引き上げて太腿をあらわにした。彼女は座ったままで自分の下半身を見下ろしながら、股の間に右手をゆっくりと差し入れた。指先がパンティの布地に触れると、丁度股の付け根の小さなふくらみの下がわずかに濡れていた。

「お漏らし?…違う、これ何?」

 湿ったパンティの布地の辺りをおずおずと摩ってみた彼女は、ハッと目を閉じて指を止める。いままで覚えたことのない奇妙な感覚が股間の辺りを熱くしている。ムズムズともどかしい、痛みとも痒みとも異なる感覚。「ありのままに感じるのだ」というゲンドウの言葉が彼女の頭の中を過ぎる。しかし、怖い。このまま触り続けていたら何かが起きてしまう気がする。

「碇司令…」

 椅子を立った彼女は、怖いものから逃れるように暗い執務室を出るとゲンドウの後を追った。

■■■

 ベッドの上で両足を開き、膝を立てたリツコの下腹部は蛍光燈の青白い光の下にさらけ出されていた。黒いタイトスカートは足元に脱ぎ捨てられ、緻密な刺繍の施された濃いベージュのパンティは左の足首に絡まっている。白衣は体の下に敷かれ、はだけたブラウスはボタンすべてが外されて、カップを開いたパンティとペアデザインのブラが脇の下までズリ上げられたひどく淫らな格好で、彼女は全身を小刻みに震えさせながら果てていた。左手で女陰の小さなふくらみを開き、右手の指の何本かは、はみ出した小さい扉の中に飲み込まれている。狭間からあふれたものは尻の門まで濡らしながら、腰の下に敷かれた白衣に丸い染み模様を作っていた。

「イッちゃった…」

 自宅では時にシャワーを浴びながら、自分ですることもあったリツコだが、仕事場で本気で果ててしまったのはもちろん初めてだった。禁忌を犯すような新鮮な刺激ではあったが、徐々に頭の中がクールダウンするにつれて、空しさが募る。溜め込んだストレスを我慢出来ずに仕事場で、こんな形で発散するなんて、大人の女がすることじゃない…。それに、正直言って自慰でスッキリ燃え尽きられるほどの青臭さとは、そろそろ卒業する年になってきている。彼女は子宮のあたりに燃え残りがくすぶっている気がして上体をゆっくりと起こすと、下腹部のあたりを左手で撫でた。

「何やってんだろうね、私って」

 もやもやとした嫌な気持ちと下腹部の満ち足り無さに溜息を付きながら後始末をするリツコは、気持ちがどんどん落ち込んで知らず知らずのうちに目に涙を溜めている。男に愚痴をこぼして抱いてもらうような依存した女にはならないと走り続けた彼女。だが、認めたくはないものの、ひとりで戦うことに疲れてきたことも事実である。

「私、母さんのように強くはなれないのかな…」

 身支度をして部屋を出ようとしたリツコは、NERV本部のシステム構築に多大な貢献をしながら、完成を見ることなく世を去った母親のことを思って天井の1点を凝視した。涙がこぼれそうになるのを堪えながらドアを開くと、そこには眼鏡を掛け髭を貯えた男が立っている。

「何を泣いているんだ、リツコ」
「碇司令…」

 限界だった。リツコは目の前の男の胸に飛び込んでいた。非常灯だけが点燈している、ほの暗い通路で辺りはばからずに子供のように声を上げて彼女は泣いた。彼女を抱き止めて胸を貸している碇ゲンドウは、しかし、リツコの首筋から立ち上る蒸れた女の香りを嗅ぎ取っていた。ひとしきり泣いたリツコの顎を、彼は右手を添えて自分の顔に向けさせる。泣き濡れて腫れたリツコの目が救いを求めるように見つめる。

「キミらしくないじゃないか」

 眼鏡を外して胸のポケットに差し入れたゲンドウは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。中年男の、しかし暗く深い闇につつまれたゼーレという組織の「利き腕」として幾多の修羅場も潜り抜けた彫りの深い、貪欲そうな表情には、何か危険な男の色香が漂い、気弱なリツコは心の隙を突かれるように彼の視線に魅入られていく。2人は唇を重ねて激しいキスを交わしていた。

「あぁ、もう、私…」

 照明を落とし非常灯の薄明かりだけになったリツコの私室。今さっきまでひとり乱れていたベッドの上でリツコは、先に裸になったゲンドウに抱かれていた。彼は荒っぽく顔を首筋から胸に擦り付ける。ブラウスのボタンを外した彼は、ホックも外さずにブラをカップごと強引に引き上げて胸のふくらみをあらわにすると、両手でやわらかな肉をギュッと寄せて激しく乳首を含み、舌で擦り上げ、たちまち尖ったそこに歯を立てしごく。それだけでリツコは背筋を反らせ、喉を震わせて激しく喘いだ。

「イイッ、それッ、たまらないッ!」

 ゲンドウはすっかりその気になって自ら両手で乳房を揉み立てているリツコのタイトスカートのホックを外し、片手でジッパーを下げる。リツコは左右の足を動かしてそれを脱ぎ捨てベットの下に跳ね落とした。自慰とは比べ物にならないほど全身の血液がザワザワと音を立てて流れ回り、リツコは興奮で体中の体毛が逆毛立っているような気がする。とにかく今は体中を愛撫して欲しかった。ゲンドウが彼女のパンティを引き下ろす時、すでに潤んだものが染みて濃い匂いを発散していたパンティの股布はツーッと糸を引く。

「最高だ、リツコ」

 彼女の両腿を抱えたゲンドウは、膝を開いてヘアの渦巻く恥丘から女陰を眺め下ろす。ドアの上の非常灯の小さな光がベットリと濡れた女陰と緩んで飛び出した内側の襞に映る。慣熟したような発酵臭を立てている狭間の上に顔を出した敏感な所を舌先で突付き、舌の表面でなぞると、リツコは顔を振ってよがった。

「ひあぁぁッ、あ゛ァァァ!」

 そのまま舌を内側に潜らせると、その声は泣き声に変わり、リツコの両膝が彼の顔を挟み付ける。それ以上の愛撫が必要ないと思えるほどにダラダラと溢れるもので、そこは沼の様相を呈していた。ゲンドウは再びヘアから縦にきれいな溝を作っている臍、アバラの縁に唇と髭を擦り付け、頬でやわらかな2つのふくらみを堪能し、顎の下から彼女の唇を捉えると長いキスをした。

「キミを、キミの母親のような形で失いたくはない」
「司令…」
「ひとりで背負おうとするな」
「あぁ…」

 唇を離し、体を抱いたままリツコの顔を自分の顔の横に押し付け低く強い声でそう言うゲンドウに、リツコは自ら彼の体にしがみ付く。だが、優しい上司の言葉で彼女の心を癒す一方で、ゲンドウはわずかに腰を浮かせて右手でズボンの中から既に直立して用意充分な肉棒を掴み、腰を開いたリツコの下腹部に当てがう。彼女の心の隙間を塞ぐ一番有効な「栓」が、それであることを、ゲンドウの男の本能は察知していた。

「怖い…」

 彼の耳元で、かすれた声でリツコがささやく。この素晴らしい肉体の持ち主が未だ処女であることを、NERVそして背後に控えるゼーレという深い闇を持つ組織の常として、その組織の高官であるゲンドウは承知していた。彼はリツコの頭を抱きながら、その髪をやさしく撫でる。そしてベトベトに潤みを湛えた狭間を割って、直立したものがゆっくりと彼女の女芯に埋められていく。

「ヒッ!あぁッ!はぅぅぅ…」

 顎を天井に向け、全身を震わせながら自分の中に埋まっていくもの放つ淫猥な感覚と、初めて味わう喪失の痺れに細く長い声を上げるリツコ。立てた両足の踵がシーツを蹴り、腰が逃げようとするのを、ゲンドウはガッチリと抱き付けて押え込む。

「あうッ!ハァッ!」

 ゲンドウがゆっくりと腰を突き動かすと、その動きに合わせてリツコは喘ぎとも悲鳴ともつかぬ声を上げ、その度に背中を強く反り返らせる。リツコの中に埋められたものは、彼女の腰が左右に揺れる度に心地良い刺激を受け、次第にゲンドウの息が荒くなって行く。その時、ベットの足元の先にある部屋のドアがゆっくり開いたことを、全身の感覚を肉欲の貪りに奪われていたリツコは知らない。背後でドアが開く小さな動作音がしたことにゲンドウは気付いた。そしてその向うに青く輝く髪の少女が立っていることも…。

「…」

 非常灯だけが灯る通路とリツコの私室。薄明かりの、ほの暗い中で絡みあっている男と女の姿を、綾波レイははっきりと見ることは出来なかった。しかし、通路とは違う重く湿った部屋の空気と、男に抱き敷かれている女の体から発せられる独特の匂いが、彼女の感覚を部屋の中のベッドの上に向けさせている。レイはドアから一歩下がった通路の真ん中で押し黙ったまま、行為の終焉を見届けようとしていた。

「うッ!ヒッ…イクッ、イクッ!」

 ゲンドウは躊躇することなく腰を動かし続け、リツコは両足を宙に浮かせ、シーツを掻きむしりながら下腹部から脊椎を駆け抜ける激しい絶頂感に襲われる。叫びと共に彼女の芯は埋まったものを締め付けて、ゲンドウは果てた。何度かの律動が収まり、リツコの体から腰を引いたゲンドウが背後を見やった時には、もう通路を隔てるドアは閉まっていた。

「予定どおりだな…」

 彼はそうつぶやくと、まだ目を閉じて息を乱しているリツコの唇を強く吸った。

■■■

 NERV本部内の総司令執務室に近い所にあてがわれている綾波レイの私室。単なる事務室に事務用の机やキャビネット、ロッカー、それにパイプベッドを搬入しただけの味気ない部屋の、丸椅子に座った少女の横顔を、机の上のデスクライトが横から照らしている。

「受け入れる…ありのままに感じる…」

 丸椅子に膝を開き背筋を伸ばして腰掛けているレイはその言葉を反芻しながら、ドキドキと高鳴ったままの胸の鼓動に戸惑う。薄い衣の下、椅子にピタリと押し付けた股間の辺りが熱い。鼓動を押さえようと胸を押さえた両手の掌が衣の下で硬くなった、ふくらみ始めたものの先端に触れると、覚えのない鋭い心地良さが背中を駆ける。彼女は思わず両目を閉じて身を硬くした。

「碇司令…」

 閉じた目の中に、絡み合っているゲンドウとリツコのシルエットが浮かび上がる。

「碇司令は、あの人と何をしていたの…」

 一番大切にされていた筈の自分。しかし、碇ゲンドウに抱かれていたあの女は、歓喜の声を上げていた。

「いやッ」

 初めて同性に感じたジェラシーに心を焦がすレイ。そして胸を押え付けていた両手は、ゆっくりと下に降ろされて、衣の下の下腹部にパンティの上から添えられる。両手の指先が、湿った布地の上からそこを押さえると、もどかしくムズムズするような甘い感覚が腰の周りに広がる。彼女はそこを押え付けたまま、背筋を反らせてハァハァと呼吸を荒くした。左手が離れ、下腹部の丸みからパンティの腰に潜り込む。そのまま薄くまばらに生え始めたヘアの上を滑り、上から右手で押さえられた小さなふくらみに指先が届く。中指が割れ目の中に差し込まれると、まだ粘りの少ない幼い潤みが指に絡んだ。指の腹が中襞に包まれた芽を擦った時、少女は小さなうめき声を洩らした。

「は!…あッ」

 顔を天井に向け、眉間に皺を寄せて感じるままに動くレイ。曲げられた足に力が入る度に丸椅子がキッと小さな音を立てる。口を半開きにして小声を洩らし続ける彼女の、股間に這わされた指の動きが早くなり、添えられた右手がそこをギュッと掴んだ時。彼女は初めて幼い絶頂を味わった。

「はァん!」

 短く高い声と共に体の動きが止まる。少女の小さな肩が早い呼吸に合わせて小さく上下している。その光景を、セントラルドグマから上階に昇るエレベーターの小さなボックスの中で内壁にもたれながら、碇ゲンドウは腕にはめた時計型の携帯モニターで眺めていた。

「役者が揃い始めたな…予定通りに」

 左手で眼鏡の鼻の辺りを押えながら、つぶやく彼の顔にニヤリと笑みが浮かんだ。この男の深い欲望のシナリオなどには、肉欲を満たされてベッドの中でまどろむリツコも、初めておんなの歓びの戸口に立ったレイも、全く気付いていない…。

 そして1年後に運命の少年が現れる。少年の名は碇シンジ…。

 


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