作 / Sa−toshi ・ 画 / 森里 涼


マヤ・壱 〜 いけないインプット


 かつての小田原市街が水没した後に、酒匂川河口を中心に開発された新横須賀市。国連艦隊の西部太平洋方面司令部のある軍港を見下ろすことの出来る小高い丘の中腹の、みかん畑と階段状の住宅地の混在する場所にNERV技術局員・伊吹マヤの住むアパートはあった。東向きの斜面に建つアパートの白い壁は陽光にまぶしく輝き、洋館風の赤い屋根とのハイコントラストを見せている。たが、そこからNERV本部のある第3新東京市までは箱根口からの急斜面を長々と電車に揺られねばならず、Evaシリーズの開発と維持管理の現場トップである赤木リツコの片腕として、まだ新人の部類に入ると言っても差し支えないのに重用されている彼女が、そこに帰ってゆっくり出来るのは週に2日もあればいい方だった。

「ホント、今日は晴れてくれてよかった」

 太陽が南中からやや西に傾きかけた午後。数日振りに本部の簡易ベッド泊りから解放されてアパート2階の自分の部屋に戻ったマヤは、午前中からたっぷりと陽の光を吸った洗濯物と寝具を取り込んでいる。よく聴いているロックグループのロゴの入った少し大きめのTシャツに水色のミニスカートというラフな格好の彼女は少し強くなってきた風にスカートを気にしながらベランダから見える海景色を眺めつつ、こんな天気のいい日にも、ひとり第3新東京市の地下にある本部で開発実験データの整理に余念のない仕事一途な上司のことを思った。

「リツコ先輩にも、この景色見せてあげたいなぁ」

 リツコと同じ大学で先端コンピュータ工学、特に人格移植によるマンマシン・インターフェイスを学んだマヤは、学部でも天才の名を欲しいままにして大学院に進んだ伝説的卒業生のリツコに心酔している。両親が比較的高齢になってから授かった娘ということで大切に、しかし厳格に育てられた上に年の離れた姉ひとりという家庭。さらに幼稚園から高校まで女子だけの学校だったことと早くから理数系の学問に魅入られた彼女は、大学に入って間もなく伝説的OG赤木リツコの存在を知った。自分に異論を唱える男子学生を徹底的に論破して休学に追い込んだという逸話まで残した、リツコの頑固なまでのプライドはマヤの心に強い印象を与えた。そして大学生活の中で感じた理数系学部内での女子に対する根強い蔑視感が、彼女に冷たいまでの美貌と理知を併せ持っていたと語り継がれる憧れの先輩の下で働きたいという欲求を募らせた。NERVへの就職は学校の推薦とリツコのツテもあったからだが、すぐに彼女の下に配属されると聞いた時は卒倒しそうになったものだった。

「っと、片付け途中だったんだ」

 洗濯や寝具の日干しと共に、簡単な掃除と衣類や小物の整理をしている途中だった彼女は、ベランダから食堂兼用の居間に戻って片付けを再開しようとした。その時、開いた窓から入った強い風が厚手で地紋の浮き出た淡褐色の遮光カーテンを大きく揺らがせて、傍らの整理タンスの上に立て掛けてあった小さな写真立てをパタンと倒した。

「あぶなかったァ」

 写真立ては整理タンスの上から一転して、ちょうど手前の床の上に置いてあった幌布で織られた大きめのトートバックの中にうまい具合に落ちた。フローリングの床の上に落ちていたら、写真立てのガラスは割れていたかもしれない。マヤはタンスの前で前屈みになりバックの中に左手を突っ込んで写真立てを拾い出そうとする。中には仕事場からの持ち出しが許可されている資料ファイルや細かな研究機材の類が入っていて、それらが彼女の指先に触れた。一瞬手元を止めた彼女は、写真立てと一緒にチタングレーの大きな弁当箱程の、ベルトでロックされた金属ケースを取り出した。写真立てには昼休みの休憩時間にカフェテリアの椅子で食事をしながら、コンパクトカメラのレンズに向かってニッコリ微笑むリツコが写ったプリントが収められている。その時カメラを構えていたのはマヤ自身。彼女は自らに向けられたリツコの笑顔を小指の先でなぞりながら、その時不意に胸を締め付けられるような想いに駆られた。そして写真立てと金属ケースを一緒に両手で胸に抱きかかえてその場にしゃがみ込むと、ポッと頬を赤らめると小声とも溜息ともつかぬつぶやきを洩らすマヤ。

「先輩、好きです…」

 しばらくそのままうずくまっていた彼女の耳に、やはり整理タンスの上に置かれた時計が軽快なチャイム音を2度響かせる。午後2時を知らせる時報だった。彼女は写真立てを元の場所に戻し、金属ケースをタンスの小物用の引き出しにしまうと、窓を閉めて部屋の整理を再開した。

■■■

 陽が西の稜線に沈み、薄暗くなり始めた頃。片付けと簡単な部屋の模様替えを済ませたマヤは、浴室の浴槽に張った湯の中に体を横たえている。その洒落た外観もさる事ながら、体を伸ばせる縦長の浴槽が備えられていたのも、この部屋を彼女が借りている大きな動機だっだ。

「あー、もう最高」

 特に泊り込み明けの長風呂はコタえられないものがある。マヤは爪先と肩から上を湯の上に出して大きく伸びをした。そして浴槽の縁に頭を載せて湯気で結露を付け始めた浴室の天井を眺めながら、彼女がリツコの下に配属されたばかりの頃にリツコが語った話を思い出す。開発実験中のEvaという機動兵器は機械的構成部と人造生体構成部とのハイブリッド構造だが、その機体には『心』を宿らせているというのだ。パイロットがEvaの『心』と契約を交わすことで、Evaはパイロットを守るために本能的な危機回避行動とそのための予測攻撃行動を起こすという。だからパイロットが10の効果を機体に求めた時、機体はその5割増の動きで反応する。コンピュータをも予測し得ない生物の本能的な力に依存したEvaの行動は、だから予想出来ない結果をもたらすリスクを持つ。その時リツコは、マンマシン・インターフェイスの到達した究極の姿が誇らしくもあり恐ろしくもあると話を結んだ。

「計算によって生まれた人の心の形、か」

 大学時代のゼミの実験でも、脳波パターンを解析してイメージとしてフィードバックする様々な方法論の模索をしていたマヤ。NERV配属後に、それを形にしたEvaシリーズの開発の成果の中から彼女が密かに失敬したものがある。それは『リツコの心の形』だった。プラグシステムの開発途上で自らが実験体となった時のリツコの脳波データ、それをマヤはこっそりコピーして解析を繰り返し、とうとう今回の泊り作業の合間に完成させた作品を持ち帰ってきてしまったのだ。

「ウフッ、先輩ごめんなさい…」

 直接Evaとは関係ないとはいえ、その開発で得たデータをくすねて着服したことに対する後ろめたさと、そこまでさせるリツコへのただならぬ自分の想いに、マヤはキャッと小声を上げて恥ずかしそうに両手で顔を覆う。それは研究者としての理想ではなく本能的なもの、恋愛なのだと彼女自身も内心認めている。リツコに声を掛けられただけで心が躍り、見つめられようものなら動悸に胸が高鳴り、そして夢に現れようものなら…朝、履いている下着が湿って甘い体臭を漂わせていることすらあった。

「ダメダメっ」

 無意識に両手で湯の中の自分の胸のふくらみをキュッと抱き寄せていたマヤは、ブルブルと首を振ってその手を離す。下腹部の中心に疼きを感じ始めた彼女は、それを振り切るようにバサッと湯しぶきを上げて浴槽から立ち上がるとタオルを取り風呂を出た。体の周りの滴を拭き取る時に乾いたタオルが上気したうなじや腋の下、ツンと上を向いた両のふくらみの先の桜色の艶やかな乳首、へその周り、そして緩い丸みを帯びた下腹部の中央に狭く生え揃ったヘアの下の敏感なところを這うと、浴槽の中で感じた疼きが増幅されてジワジワと体の中に広がってくる。

「うッ…」

 その度に息をつめるマヤ。足の先まで体を拭き終えてペロリと唇の周りを舐めると、彼女はボリュームのあるセミショートの髪を軽く形だけ拭い、まだ水気を含んで重い髪を2、3度左右に振りながら、たまりかねたように裸のまま白いバスタオルをまとって脱衣コーナーを出た。居間に入ったマヤは厚手の遮光カーテンを閉め切ってから室内灯をつけて整理タンスの前に立つ。タンスの上のリツコの写真をジッと見た彼女は、続いてタンスの小物入れを開けてチタングレーの金属ケースを取り出した。

「先輩…私、もう我慢出来ないんです、許してください」

 祈るようにささやいたマヤはケースのベルトロックを解き、蓋を開ける。中にはインプット済みのデータディスク1枚、マイクロチップと電極を仕込んだ電極パッド10数個とウズラの卵大のピンク色ののラバーカプセルがひとつ、透明なパッキングシートに大事そうに包まれて入っている。それは何日もの休日と残業の合間をつぎ込んだ彼女の苦心作、憧れの先輩の『心の形』の具象化なのだ。彼女は直径2センチ程のパッドを額とうなじの左右、両手の甲、左右の乳首の下、腰の後、内股の付け根近く、両足の甲に貼り付ける。さらにピンクのカプセルを手に取った彼女はゴクリと生唾を飲み込むと、それを右手の指先でつまみ、もう既に少し潤んでいる股間の肉襞の中にゆっくりと埋め込んだ。

「あン、」

 それだけで眉を寄せて小さく声をあげてしまうマヤ。体中のパッドと股間のカプセルからは、赤く細いオプチカルリード線がそれぞれ長く伸びていて体の上を這い出し、それらは最後に束ねられてケーブルコネクタにつながっている。彼女はそれをベッドサイドのハンディターミナルのケーブルポートにつなぐと、データディスクをセットして手早くキーを操作してからバスタオルを敷いたベッドの上に横たわって目を閉じた。チッチッというわずかなアクセス音が彼女の耳に届くやいなや、体に貼られた電極からくすぐったいような波動が放たれる。遅れて股間の奥に埋めたものが自分の潤みで膨れ上がり始める圧力を感じると、波動は甘い痛みになって彼女の体中を襲い出した。

「ハッ、あ、ああん!」

 たちまちマヤはケーブルの絡む体をよじって身悶えする。どこか遠慮がちにそれでいて時に激しく彼女の爪先から頭まで駆け抜ける波動。激しい波が押し寄せる度に、マヤは背中を弓なりに反らせた。

「し、知らなかった…先輩がこんなに、激しく愛してくれるなんて」

 マヤは息を弾ませながらつぶやく。無論、それは彼女の考えたプログラミングに従って解析された、半ば彼女の思い込みの造り上げた想像上のシロモノに過ぎない。しかし、刺激の陶酔感は既に彼女を夢の世界に導いている。電極から送り出させる微弱な電流波はマヤの意識とシンクロして、まるで目の前にいる誰かの指先が自分の体に這わせているような幻覚を出現させていた。焦らすように愛撫するポイントを外す感じ、マヤはそれを修正するかのように両手を首から鎖骨、胸板に這わせる。小振りだが硬い弾力で張った白い乳房を両手で寄せ、乳首に向けて絞り込むようにすると、豆粒のように尖った先がジンジンと痺れてくる。

「先輩、そこ感じちゃうゥ」

 うわごとのように彼女は白い喉元を震わせる。両手の人差指と中指の腹で左右の乳首を挟み、しごくようにクイクイと引っ張ってみる。胸の先の尖りから、乳房全体に広がる甘酸っぱい心地良さは体全体を包み混み、そして下腹部の狭間の奥からジワジワと熱いものが陰唇の外に溢れ出す。挟んだ乳首を強く捻ると、甘い痛みにマヤは全身を突っ張らせた。

「いいッ!いいよォ…」

 生乾きの重い髪を散らしながら頭を左右に振るマヤ。胸の先を憧れの人に噛まれるような錯覚に、うめきは半分泣き声に変わっている。内股をギュッと閉じると、陰唇の周りから股の付け根に溢れ出した潤みがまとわり、中で水分を含んで次第に大きくなる特殊ラバーのカプセルは彼女の体の動きで少しずつ入り口から奥へと送り込まれ、粘膜を通して熱い刺激を伝える。彼女は思わず両手を襞の上に置き、その先端にあるすっかり硬く立ち上がった女芯を押え付けた。最初の強烈な快感が電撃となってマヤの脊椎を走る。

「ああァァッ!」

 思い切り背中を反らせたマヤはそのまま寝返って顔を枕に埋める。下半身のかすかな動きにも埋め込んだカプセルは膣壁を圧迫し、その刺激に彼女はたまらず両足をMの字に開き尻を突き上げて喘ぎ続ける。背中はジットリと汗ばみ、尖った乳首が敷いたタオルの表面の凹凸を擦ると舌先で転がされているような快い刺激になって伝わる。浮かせた腰から下腹部の筋肉がピクピクと引きつり、後に開かれた股間から尻にかけてのスミレ色の狭間は、硬くなった女芯から襞を経てアヌスまでベトベトに溢れたもので光る。

「先輩、先輩ッ…」

 泣きながらそう枕の中に叫ぶ度に、マヤの突き上げられた尻が上下する。止めど無く溢れるものは彼女の激しい下半身の動きで既に狭間から陰唇、そして恥丘や太ももの付け根あたりまでを濡らし始め、室内には彼女の体臭が漂い出す。体の中に埋まったものから発する刺激は子宮を圧迫し収縮させ、まるで貫かれた凛々しい男のモノが彼女の下半身を嬲っているかのような激しい快感に変わっていた。

「リ・ツ・コ…先パ…、マヤ、マヤは、あぁッ!イッ…ちゃうゥゥ」

 彼女は想いを込めた言葉の断片を吐き出しながら、両手でベッドの両脇の白いシーツを掴む。その体は迫る絶頂感を期待して白い肌がピンク色に赤熱する。

「うぅッ、ウゥァッ!」

 激しい快感の高まりに息を止めたマヤの額に力がこもり、枕に埋めた横顔が歪んで体がわずかに持ち上がる。その瞬間、彼女の脳裏にかすかなイメージが光の中に浮かび、すぐに消えていった。うなり声と共に絶頂が駆け去ると、そのままベッドに突っ伏すマヤ。荒い呼吸に脇腹が波打っている。

「…今のは、リツコ先輩じゃない?」

 息を整えながら、マヤは想い入れているはずの人のイメージとのズレを頭の中で思い起こそうとした。あれはもしかすると少年だったかも知れない…? まるで、創造神から叱られて恐れ慄いている気弱で繊細な天使のような線の細さ。顔ははっきりと思い出せない。しかし、よく見掛けているような気がする。まさか…?!

「そんな、でも…」

 すっかり波動が引き、体を起こしたマヤは体から電極を外す。かすかに残る痺れに顔をしかめながら、股間から小さな鶏卵ほどに膨れたピンク色の塊をオプチカルリード線ごと引き出すと、それはヌルリと温もりを湛えたまま掌の中に納まった。濃いおんなの香りがマヤの鼻をつくと、彼女は乱れた髪を一方の手で透きながら困惑した表情で股間から取り出したものを見つめた。

「こんなことって、どうしよう」

 もしかすると、サンプルデータをコピーする時に保管されてあった検体を間違えてしまったのかもしれない。信じたくはなかったが、多分これはリツコではない。それ以上にマヤを惑わせたのは、自分の体が最高の反応を示したという現実。男に抱かれたことのない彼女が、こんな形で男を意識したことは今まで全くなかった。それもよく顔を合わせる少年を、自分の体が喜んで受け入れた…。

「マヤ…冷静になって」

 彼女は自分自身に言い聞かせようとつぶやく。膝を崩してベッドの上にペタンと座り込んでいるマヤは、しかし、今までのリツコへの想いに対する裏切りのような後悔と、体が覚えてしまった疑惑の波動へのときめきに、しばらく裸のままそこを動くことが出来なかった。

■■■

マヤ・壱〜いけないインプット/終



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