作 / Sa−toshi ・ 画 / 森里 涼


マヤ・弐 〜 運命のラッシュアワー


 午前7時に中央線始発の三鷹電車基地を出て東多摩、かつての立川まで各駅停車として走ったシルバーとオレンジの塗色を施された710系電車。車両はその先甲府までを通勤快速として運転されている。車内はさらに西に広がる西多摩の盆地に集中する企業や学校に通う、あるいは峠を2つも越えた甲府盆地まで遠距離通勤をする乗客で超満員だ。四季が失われてしまった5月の半ば、夏と言っても差し支えない陽気に車内の冷房は動いているものの、効きが抑えられているために混み合う車内には蒸した空気が充満していた。その先頭車両の中ほど、ちょうど左右の扉の真ん中で押し潰されそうになりながら明るい灰色の制服を着た女子高生がうんざりした顔で揺られている。

(何でこんなに混むんだろう、やんなっちゃうなぁ)

 その年の春、高校2年生に進級した伊吹マヤである。彼女は東多摩郊外のニュータウンからバスで駅に出た後に、電車で八王子の女子高に通っている。セカンドインパクト後の混乱に乗じる形で勃発した東アジア紛争。その以前から地下資源を巡る南沙諸島周辺の領有権争いが飛び火する形で、日本政府は八重山諸島の西にある尖閣諸島の帰属を中国と争うことになった。そして人民軍過激派の新型弾頭爆弾搭載ミサイルによる東京への不意討ちは、臨海部を中心に中央、千代田両区とその周辺部をクレーターに変えてしまう。セカンドインパクトによる海面上昇で東京区部の東半分は既に機能を喪失していたものの、これにより東京都心、旧23区は辺縁部を除いてほぼ人の住む所ではなくなってしまった。首都を信州松本改め第2新東京市に遷都した旧東京は職住機能を西部の多摩地区に移し、彼女の通う学校も被災後に都心から現在地に再建されていた。幸いにも被災を免れていた伊吹家はニュータウンに転居し、彼女は毎朝ラッシュに揉まれながら小学校から入った私立一貫校に通い続けている。

(まだまだ先だなぁ)

 多摩川の鉄橋を渡る電車の轟音を聞きながら、マヤはフゥとため息を吐く。身動きの取れない混雑ではっきり周囲を見回すことなどは出来ないが彼女の周りを囲む人々、ワイシャツにネクタイの典型的なサラリーマンやサマースーツのOLたち、少数ではあるがマヤのような制服姿の中高生の間には、朝だというのに既に憂鬱な気だるい空気が満ちている。それだけでもイヤなのに、この混雑ではピシッとアイロンの当てられた白い半袖シャツもしっかり形押ししてある明るい灰色のベストやプリーツのミニスカートにもシワが寄ってしまう。暑くても真紅のリボンタイを襟元にキチッと締めた彼女にとって、それはかなりのストレスになった。

「やぁ、2年A組の伊吹さんだね」

 ヨレたスカートを引っ張ろうと窮屈な体勢でもがくマヤの横から、男の声が掛かった。彼女が体をそちらに向けると正面には白いワイシャツに地味な灰色のネクタイを締めて細いメタルフレームの眼鏡をかけた、20代半ばという感じの線の細い男が横手に吊革を握りながら立っている。

「あ、最上先生、おはようございます」
「おはよう」
 その男、最上航(わたる)はマヤの学校で英語を担当している教師だった。古株の中年女性教師が病気で休職したために、春からピンチヒッターとして系列校から転属してきたばかり。線が細い上に女生徒ウケする強烈な印象があるわけでもなく、その風貌から「銀行員」などというアダ名を頂戴していた。
「こんな凄いラッシュ、女の子にはキツいね」
「イヤだけど、もう馴れちゃいました」

 言いながらニッコリと微笑むマヤ。他の女生徒たちの眼中にはない最上だったが、生徒に媚びを売ることもなく、まるで皆勤だけが取り柄の銀行員のような彼の「まじめ」そうな雰囲気に、彼女はどこか惹かれるものを感じていた。友達の多くは人気男性タレントの話題に熱中していたが、マヤはそういう男の持つ華やいだ、言い換えればウワついた雰囲気が嫌いだった。

「朝から先生と一緒になれるなんて、何か得した感じ」
「え?」
「ううん、何でもないです」

 小声でつい本音を口走ったマヤは、聞き返した彼に首を振ってその言葉を取り消した。少し襟足を短めにしたサラサラの髪が揺れて淡いシャンプーの香りが漂う。

「髪、切ったの?」
「はい、ちょっと暑いから」

 ほんの少し襟足をカットしただけだったが、それに気付いてくれたことにマヤの表情が一層ほころぶ。電車は多摩川を渡ると丘陵地帯を縫うように走り、カーブやアップダウンで加速減速をする。その度に車内は揺すられ、両足で踏ん張るしかないマヤは周りの人垣の動きに翻弄された。

「大丈夫?僕の肘に掴まってもいいよ」
「はい」

 気遣う最上にうれしそうに答えるマヤ。さすがに男性教師の腕にすがる勇気はなかったが、電車がドンと大きく揺れた拍子に、思わず吊革に掴まる彼の肘に片手を掛けた彼女は恥ずかしそうに視線を下に向ける。

「すみません、先生」
「構わないよ」

■■■

 次の停車駅、八王子で降りる乗客がホームの階段の近くの車両に移動しようと詰めてくるので、車内の混雑は一層ひどくなっていた。もう体をずらす余裕もなくなり、マヤは最上の胸に体を預けるような体勢になっている。恥ずかしさと嬉しさにしばらくボーっと舞い上がっていた彼女は体の後、腰から尻にかけて違和感を覚えた。不自然にスカートの裾が引かれるような感覚が続いたかと思うと、いきなりパンティ越しに彼女の尻を手が撫で付け始めた。

(やだ、痴漢!?)

 体勢を変えて逃れようにも、全くその余地がない。目の前にいる先生に訴えようか、マヤはチラリと向き合う最上の顔を見上げた。だが、車窓の方を見ている彼はそれに気付かない。何より憧れを抱く男性に向かって痴漢されていると告白する恥ずかしさが、声を上げることをためらわせた。その間にも痴漢の掌は木綿の布地越しに彼女の尻の双丘をコネ回し、柔らかさを十分に堪能する。そして動きが止まった途端に手刀が双丘の間の谷間を割り込ん来た。時に左右の柔壁を押し広げるような動作も交えながら、その指先が後ろの菊門の周りを布地の上からやさしく刺激する。

(いやっ、こんな所で変なことしないで)

 大勢の他人の前でいきなり後を汚されるマヤは唇を噛み、何とか姿勢を変えてその手を逃れようとする。しかし、彼女の腰の動きにピッタリと合わせて、その指はクルクルと菊門の周りを這う。そして指先がツンと彼女の恥ずかしい菊門を突いた。

(やん!そこは汚いのに)

 後ろの穴にタッチされたマヤは、言いようのない恥辱感に鳥肌を立てる。たが、そんな場所をまさぐられるということが、彼女の神経を一層そこに集中させることになった。痴漢の手はタッチを止めるとパンティを後から強く引っ張り上げた。摘まれた布地は彼女の股間に前からピタリと食い込み、敏感なところを間接的に刺激する。マヤはせめて両足を閉じてそれに抵抗しようとするが、電車の揺れと膝を閉じる事によって食い込んだ布地がさらに刺激を高める逆効果になり、彼女の意に反して股間の辺りが次第に熱を帯始める。

「どうかしたの、伊吹さん」
「い、いいえ、大丈夫です先生」

 モゾモゾと人込みの中で体をよじっているマヤの気配に気付いた最上が声を掛ける。しかしその事で声を掛けられた彼女は、ますます本当のことを言えなくなって曖昧な苦笑いで返答するしかなかった。その間にもパンティの後脇から差し込まれた指の腹が尻肉に直接触れ、指先が尾てい骨辺りの狭間の上端をクネクネと撫で触る。電車が大きなカーブで傾いた途端に狭間を滑り降りてきた指が直接菊門を突き、その先がわずかに門扉の中に差し込まれた。

「ハッ!」

 思わず声とも溜息ともつかぬものを洩らすマヤ。だが、軋むレールと車輪の音が、それを覆い隠してしまう。そして彼女は異変に気付いた。一度引かれたその手が再びゴソゴソと尻肉の辺りで動いていたかと思うと、股間を覆う布地の密着感がなくなっていた。閉じた両ももの付け根が直に触れ合う感触、パンティが股間の当布の所で前後に切り離されてしまったらしい。余りのことに彼女はどうしていいのかわからなくなって体の緊張が一瞬解けた。すかさず緩んだ谷間の中に、硬直した物体が当てがわれる。何かゼリー状のものが塗られているのかベットリとした感触が狭間に感じられた途端に、人工的なビリビリした振動が当てがわれたものから会陰を中心にして伝わる。それは痴漢の手で前後にゆっくりと動かされ、まるで計ったかのような微妙な反り角はその先端を、やや腰から下を突き出すような体勢になっていたマヤの若芽に到達させる。

(何でそんなところに触るのぉ!)

 遠慮容赦のない行為に、マヤの目に涙が込み上げて来た。声を上げて泣きたいほど恥ずかしくて気持ちが悪い。でも、グリグリと狭間を割り、若芽を突くその塊の発する振動。それはイヤでもそこに神経を集中させる彼女の脳裏に本能的な肉感を伝え始めている。それを見透かしているかのように狭間に当てられたモノは会陰の前方、ポッテリと閉じる下の唇をも割り、若芽を捉えて押し付けられる。

「や、やめてッ」

 丘陵地を縫うように走る線路は掘割や小さなトンネルを続けざまに通り抜けるため、その度に電車はゴウゴウと騒音を立てる。精一杯のマヤの拒絶の小声は掻き消えてしまい、目の前のあこがれの男には届かない。

(ああ、もう)

 絶望的な気持ちで最上の腕に掛けた片手にもたれ、彼に体重を預けるマヤ。ついにはガードの空いた脇からベストの前ボタンを1つ2つと外した痴漢の別の手が、人込みなど意に介さぬかのような不敵さで彼女の胸をまさぐる。その手は更にシャツブラウスの小さなボタンも器用に外し、ブラのカップの上からまだ青く幼いふくらみを揉み立てる。股間への相次ぐ行為ですでに勃起した小さな乳首をカップの上からキュッと摘まれるともどかしい快感が全身に広がり、思わず震えが走る。

「んン…」

 たまらず彼女は最上の胸に顔を埋める。ワイシャツに効いた糊の匂いに混じるかすかな男の体臭と、ガタガタと耳に付くリズミカルな電車の走行音。人込みの中での恥辱と、素通しの股間と乳首から突き上げるムズ痒い快感。抵抗することも声を上げて泣くことも、快感に身を任せて叫ぶことも出来ない状態で、彼女は小刻みに肩を震わせて経験したことのない感情の高まりを感じている。熱を帯びた下腹部が潤みを帯びていることが自身ではっきりとわかる。遊び好きなクラスメイトが「エッチする」という言葉を口にするのを聞くとはなしに耳にしていたが、こんなところで「エッチされる」なんて。

■■■

「うぅッ!」

 最上の胸に上体を預けて顔を埋めていたマヤが思わずうめく。少女の扉を左右に割る股間のモノが、斜めに女陰に突き立てられたのだ。ビリビリと振動しながらそれは、潤みの中に頭をゆっくりと埋める。当てがわれていた感じから決して大きなモノではない筈だが、しかし興味本位でたった1度だけ大事な所をまさぐった時の自分の指より大きなものを知らない少女のそこを、ゆっくりと犯していくモノに、彼女は生まれて初めての破爪のジレるような痛みを覚えた。そして肉体的な感覚以上に精神的な恥辱と興奮が彼女を襲う。

「はぁぁン…」

 小さな、鼻から抜けるような細い声でマヤは泣いた。最上は知ってか知らずか吊革を持ち替えて、胸に預けられた彼女の頭を脇から抱き寄せた。電車は甲高い音を立てながら減速を始め、頭上のスピーカーから自動アナウンスの機械的な女性の声が八王子駅が近いことを知らせる。多くの下車客がザワザワと扉の方に向かって動き出すと、いつの間にか痴漢の手は彼女の胸から離れていた。しかし…。

「あぁ!」
「伊吹くん?!」

 八王子駅に停車した電車から、ドッと吐き出された下車客の人波。マヤと最上は押し流されるようにホームに出た。マヤは左手に通学鞄を持ち、ボタンの外されたベストの前衣を右手で押えながら、泣き声とも吐息ともつかぬ声を洩らして彼を押し払う。そして足を引き摺るような不自然な格好で昇降階段脇の女子トイレに駆け込んだ。最上は乗降客の波の中でその後ろ姿をただ見送る。その彼の肩を背後からポンと叩く茶のサングラスを掛け黒革のジャンパーを羽織った、いかにもその筋の者という感じの短いパンチパーマの中年男。

「まいど、楽しませてもらったわ」
「…」
「オレも男だ、約束は守ってやるぜ、センセ」

 まばらになったホームの人波の中で気まずそうに俯く最上。その男はジャンパーのポケットからクシャクシャに丸められた請求書を取り出すと最上の手に握らせて、「じゃあな」とひとこと残すと昇降階段の方に立ち去って行った。請求書に書かれているのは東多摩の悪名高い歓楽街、新歌舞伎町のピンサロの法外な飲食代金の金額。彼はフーッと溜息をつくと指先でズレた眼鏡を押し上げてから、その請求書を2度3度と破って傍らのゴミ箱に捨てる。それから女子トイレの方をチラッと見やりもう一度溜息をついた最上は、そのまま足早に昇降階段へと向かった。

 一方女子トイレの個室の中で、マヤはすすり泣きながらスカートを托し上げる。尻肉の下の辺りで真横に断ち切られて形を失った白い木綿のパンティが、無残に腰の周りにまとわり付いていた。

「はぁぁッ!コレ、やだッ」

 彼女の体の中には、ビリビリと動き続けるモノが半分埋められたままだった。その内側から若芽を摘むような快感と軋む痛みに首を振りながら、両足を開いたマヤはその柄を掴んでゆっくりと引き抜く。ゼラチン状の物質と半透明に白濁した自分の粘りに混ざって、糸のような赤い血が僅かに見えた。呆然とそれを見つめるマヤの手から、安っぽいピンク色の硬質ゴムか何かで出来たモノが床に落ちて転がる。そのままガックリと洋式便座に腰を落とした彼女は涙で顔を光らせながら俯くと、肩を震わせながら放尿していた。汚された狭間から吹きこぼれる生暖かい感触とショボショボと便器に落ちる滴の音が、マヤの脳裏にどうしようもない惨めさを募らせる。

「イヤ、イヤ、いやぁッ!」

 激しく左右に頭を振りながらマヤは泣いた。身を持って知った容赦のない男のイヤらしさ、あこがれの人の前で辱められる言い様のない屈辱、そして肉体的な快感を拒めなかった女としての自分の体と心。

 高校2年の初夏、マヤは不本意な形で少しだけ大人になった。

■■■

マヤ・弐〜運命のラッシュアワー/終



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